陽射しが強かったので瀧に向かっ たが、登りはじめると雲がかり、 急に薄暗くなった。道中で謎の背 骨を拾ったり、大きな青大将が横 切った。思い返すとそれが前兆だ った。水が出ていて身体が濡れて きたので、そろそろ帰ろうと思っ たら、発砲音のような、なにか弾 けるような音がして、川向こうの 崖が、土煙を上げて崩れた。
身の危険を感じて、慌てないで山 を下りた。落石や土砂が清流を汚 して、泥のような川になっていた 。もしも対岸ではなくて、こちら の崖が崩れていたらと思うと、ぞ っとした。道中でこう思った。誰 かが守ってくれたんだなと。
山を下りるとまた晴れてきた。陽 光がもたらしてくれる、理由のな い安らぎに身を委ねながら、あれ はなんだったろうと振り返ってい た。目の前で土砂が崩れる確立は 、雪崩に遭遇する確立と同じくら いだろうか。
今こうやって生きているのは、宇 宙に生かされているから。自分一 人では、朝起きることも、呼吸を することもままならない。人間が 内的霊性を失って、生物界の頂点 のような顔をして、外的世界を都 合よく解釈していると、いつか痛 い目に遭うだろう。
身の危険を感じて、慌てないで山
山を下りるとまた晴れてきた。陽
今こうやって生きているのは、宇
土砂崩れがトラウマになってしまったの か、それとも暑さで朦朧として いるだけのか、後日の瀧への道中で、妙 に繊細になって、変性意識状態に なっている自分に気がついた。さっ きから誰かがついてきているよう な気がするし、大きな赤い蝶が横 切り、緑色の物体が空中に浮かん でいる。
そういう気がするというだけなの だけど、見えていないとは言い切 れないし、空想を越えたリアリテ ィが迫る。山を下りると普段通り になるので、場のエネルギーや天 気が自分の状態を変えている。山 の神気に触れていると、次元がひ とつ増えたような気がしてくる。 言い換えると、自分が自分(自由 )を見ている。
瀧壺が急に薄暗くなる。浮遊する 飛沫のなかに、雨粒が交じってい る。ゾッとするような神気を感じ て山を下りた。家に帰ると激しい 雨、二匹の犬が雷鳴に怯えて、暗 い場所を探して震えている。
神気と霊気(inspirati on)はよく似ている。充満して いる万物の気配に、ある条件が重 なって霊気を帯び、放電した霊気 が根元に近づくと神気になる。 自然だけではなく、芸術作品にも 神気を帯びているものがある。極 端に強いものに触れると鳥肌が立 つ。無意識に組み込まれているチ ューナーが、宇宙との出逢いを受 信している。
人間(大人)は安全な場所にさえ いれば雷鳴を怖がらない。自然の 科学的な仕組みを把握して、対処 方法を心がけて距離を作っている 。身を守るために、なんだかわか らないものに距離を置いて武装し ているうちに、死を恐れ、同じ人 間同士でさえ恐れるようになって しまった。
道路に獣が倒れていた。草むらに 運んだ。何回運んでも、慣れるこ とはない。車にはねられたハクビ シンの体毛と、瀧壺に落ちる木漏 れ陽は、同じ太陽の色だった。
人間も自然の一部なのだから、畏 れや愛は心のなかにあるはず。こ んなはずじゃなかっただろ?と、誰か に問いかけられているような 気がする。
そういう気がするというだけなの
瀧壺が急に薄暗くなる。浮遊する
神気と霊気(inspirati
人間(大人)は安全な場所にさえ
道路に獣が倒れていた。草むらに
人間も自然の一部なのだから、畏