新しい世界っていうのは、いきなり目の前に宇宙の扉が現れて、そこを開けるとガラッと世界が変わるようなものではなくて、目に見えないような小さな扉を、孤独に、ひとつひとつ手作業で、壊れないように丁寧に開けているうちに、いつのまにか世界の見え方(認識)が変わっていたということ。
自分の場合は表現行為、その作品が道標になっているけど、ほんとうはすべての人が芸術家だと思う。たとえ絵を描いたり、演奏したりしていなくても、なにげない日常の中で、内面世界に出会い、神々に触れ、芸術体験をして、小さな新しい扉を、ひとつひとつ開いている。
才能豊かで世渡りが上手い人よりも、私にはなにもなくて、世界から必要とされていないと孤独を感じる人ほど、その扉を開ける力は強い。そういう人を、宇宙は抱きしめて離さない。この抱擁や息吹が、少しでも伝わればと思う。作品がその手がかりやきっかけになればと思う。
……われらに要るものは銀河を包む透明な意志 巨きな力と熱である…… 農民芸術概論綱要 宮沢賢治