弘法大師空海が、足のわるいお婆
三年前くらいに、薪の手配に苦労 していた自分を不憫に思ってか、 なにか理由があって最近その桜を 切ったらしいから、好きに使えば いいと、大家さんに言われた。土 地の人に話はつけてあるから、い つでも持っていってもいいとのこ と。ご好意に甘えて、桜の幹だけ を使って、枝はそのままにしてお いた。
時が過ぎた今、その枝を木炭にし て、大家さんの家の目の前にある 、しだれ桜の幹を描きはじめてい る。解けずに放置していたパズル が、カチリと組み合わさったよう な気がしていた。
画用木炭を買いに行くのが億劫だ ったので、木炭ぐらいなら自分で 作ってしまおうと、画用に使われ ている柳によく似た形をしている、 しだれ桜の倒木があったのを思い 出しただけ、うまく木炭が生成で きたから、桜で桜を描こうと思っ ただけ。深く考えているわけでは なくて、自然の成り行きに従って るだけなのだけど、この枝が木炭 になることは、はじめから決まっ ていたような気がする。
見つけることができなくて諦めて いたパズルの最後のワンピースは 、ほんとうは自然の時間の流れに 微睡んでいた。まだ自分に準備( 心得)ができていなくて、だから そのときは気づくことができなか った。こちらの時間の流れを合わ せるのには、三年という時間が必 要だった。そしてそのふたつの流 れが合流した場所で、時間は消滅 した。
はじめから決まっていたように感 じるということは、出会ったとき に眼に見えない約束が内包されて いて、その約束を思い出したから だろうと思う。その種は心のなか で相応しい時期を待ち望み、まる で花が咲くように、彩られた未来 が開示される。眼に見える桜は毎 年咲いてくれるけど、気づいてく れるまで咲かない花もある。
いまこの時期の桜は、人の目を避 けて、厳しい冬に備えている。千 手観音のように伸びた無数の手が 、静かなる生命を蓄えている。寂 しげなその腕に、眼に見えない約 束が内包されている。花は相応し い時期を待って咲く。その先に新 しい世界が展開する。
時が過ぎた今、その枝を木炭にし
画用木炭を買いに行くのが億劫だ
見つけることができなくて諦めて
はじめから決まっていたように感
いまこの時期の桜は、人の目を避
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