しん‐ら
1 無数に並び連なること。
2 天地の間に存在するもろもろのもの。
すっと降りてきて離れなくなった言霊。 森羅とは樹木が限りなく茂り並び、宇宙に存在する一切のものへと、果てしなく続く光の輪廻、奥行きの旅。
本を作るとなると、今まで描いてきた作品をまとめて、というのが一般的だと思うのだけど、そういう作品集や図録ではなくて、まず最初にカタチのないボンヤリとした完成形(言葉としては矛盾しているけど)のイマージュがあって、そのイマージュが求めているものを描いていくという作業を繰り返した。
ものづくりをしている人なら、まるで時空の裂け目のような、このイマージュの真空力がわかるだろうと思う。創造力とは、カタチになりたがっている未来を、イマココに掴みだす力。根拠のない自信を抱いて、暗闇に手を伸ばして、光を導くこと。周りから孤立しても、世界から取り残された気がしても、自分の内側で感じた確かな世界を表現していれば、やがて魂が充実して、不思議な力を発揮する。
去年の10月くらいから描きはじめて、行き先もわからずに、勝手に動きだしたトロッコ列車に乗っているような気持ちで森の景色を楽しんでいたら、途中で何度も迷子になり、迷った先でstay goldや水晶に出会った。進んでる方向が間違っていなければ、道中にはいくつもの黄金の果実がある。
ちょっと季節が変わらないと次の作業が進まないなあと、トロッコの中で身をかがめて休んでいた頃に、外では武漢風が吹き荒れていて、トロッコを出口が見える場所まで押し進めてくれていた。創造の輪に入っていると、シンクロニシティが頻繁に起きて、全宇宙が協力して、想いが実現するように助けてくれる。
精霊に案内された沈黙の旅は、屋久島の深い記憶から始まって、徳島の霊山に辿りついた。
それは森の中から現れて、それは光の中に消えていった。
この落水紙は、ほんとになんとなく、別件の和紙を注文するついでに取り寄せた。しっくりくるから使うことにして、その影が木漏れ日だと気づいたのは、山越えの峠道だった。精霊のアドバイスは無意識に届くので、気がつくまでに時間がかかる。
そもそも自分がなにを作りたいのか、まだぼんやりとしか見えてないから、無意識に頼る以外に方法がない。カタチになってみて、ああこういうことだったのかとわかるのは、人間の意識構造が、たぶんそういう仕組みだから。人の目は見たいものを見ている。そのことに気づくだけでも、本質は向こうから一歩ずつ近づいてくる。
大いなる魂には、その人にそもそも備わっている特質、簡単には失われないような本質を引き出して、表現させようとする働きがある。周囲の人たちを、無意識に模倣することによって、身に着けてしまった虚飾を剥ぎ取り、人間の身体を借りて、本来の自由を魂に与えようとする。
制作中に生まれた試し刷りやミスプリントの和紙を使って、栞を作ってみた。とってもいい感じで、森羅も嬉しそう。どんな物にも、生まれてくる意味がある。
既存の青い落水紙が本のイメージに合わなかったので、顔料インクを水に溶かして自分で着色。修正に修正を重ねて、ようやく第一号が完成。本の中身は外注だけど、装丁と製本が自作。大量生産できないような手触りと質感、つまり想いが宿ったと思う。
中身が一冊単位の外注品なので、修正があるたびに新たに注文、改造したり、町工場で小さなロケットを作っているような気持ちになった。ロケットは大気圏を抜けられるかどうかが肝。大気圏とは、既に確定した美の基準のこと。いいね稼ぎや炎上商法やインスタ映えのような既成燃料では、人間の壁を突破して、芸術の宇宙には辿りつけない。
出版社に依頼すると、ほとんどの場合、100部でも1000部でも、あまり価格の差はないのだからと、一冊の単価が安くなる大部数を勧められる。多く刷れば刷るほど安価になる、この理屈が数学では理解できても、しっくりこなかった。マイナー志向ではないのだけど、もし一冊ずつに同じ熱量がこもるなら、多く刷るほど安くなるのはなんとなくしっくりこない。それになにより、在庫を抱えたくない。
art book(日本語でしっくりくる言葉が見つからない)って、作品集や図録とは違って、一枚の絵のように単体で自立してる作品。本って霊(たま)が乗りやすくて、その物の背後には、ただならないものが染み込んでいる。大多数の人が見て感じているものをインプットしていても、アウトプットされるものは他者の視線に侵される。周りから孤立しても、世界から取り残された気がしても、自分の内側で感じた確かな世界を表現していれば、やがて魂が充実して、不思議な力を発揮する。
そもそも本人が、なにを作っているのかはっきりしない、精霊からのオーダーメイド。価値がつけられないようなものをカタチにしているのだから、単価がどうこうは別次元の話。わかる人にだけわかればいいのではなくて、わからないから届けたい。なんだかわからないけどぐっとくるものが、この世の壁を超えるから。
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