「光は保ち、その電燈は失われ」
おれはひとりの修羅なのだ。風景は涙に薄れ。
砕ける雲の、眼路(めじ)をかぎり、玲瓏(れいろう)の天の海には、聖玻璃の風が行き交い、ZYPRESSEN(糸杉)、春の一列。黒のエーテルを吸い、その暗い足並みからは、天山の雪の稜さえ、光るのに。翳ろう波と、白い偏光。誠(まこと)の言葉は失われ、雲は千切れて空を飛ぶ。ああ、輝きの四月の底を、歯ぎしり、燃えて、行き来する。
おれはひとりの修羅なのだ。玉髄(ぎょくずい)の雲は流れて、どこで鳴く、その春の鳥。
日輪青く、翳ろえば、修羅は樹林に交響し。陥りくらむ天の椀から、黒い木の群落が延び、その枝は哀しく茂り、すべて二重の風景を、喪心の森の梢から、閃いて飛び立つカラス。気層いよいよ澄み渡り、檜もシンと天に立つころ。
草地の黄金を過ぎてくるもの、ことなく人の形のもの。ケラをまとい、おれを見るその農夫。
(本当におれが見えるのか?)
まばゆい気圏の海の底に、哀しみは青々深く。ZYPRESSEN、静かに揺すれ。鳥はまた、青空を斬る。誠の言葉はここになく、修羅の涙は土に降る。新しく空に息づけば、ほの白く肺は縮まり、この躰、空の微塵に散らばれ。銀杏の梢、また光り、ZYPRESSEN、いよいよ黒く、雲の火花は降り注ぐ。
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拝啓 宮澤賢治様
「雨ニモマケズ」「春と修羅」の一部を朗読にて筆記、原文と照らし合わせて、僭越ながら再構築させていただきました。言霊は原文に忠実ですが、原文にはない句読点はもちろんのこと、段落、漢字変換に相違があります。現代風にしたかったわけではありません。ただ何度も詩文を耳と目と指で噛みしめる中で、自分の背骨の芯の芯に、すうっとあなたが通り過ぎる感覚を、誰かと共有したいという想いが沸いてきたのです。
tact & inspiration をありがとうございました。イーハトーブでお会いできる日を楽しみにしています。
敬具
2012年 3月18日 夜 榊和也
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