ひどく湿気た長雨の昼下がり、発注していたある作家さんの画集が届いた。ずいぶんまえに存在を知って、とても心に残っていた作家さんなのだけど、なぜだか風のように通り過ぎたまま、もう忘れてしまったように思っていた。それが今年に入ってふと思い出し、それからずっと心に留まってしまった。その理由は、自分でもよくわかっている。自然になりたかった彼が制作のために登った谷川岳で遭難して、帰らぬ人となったのが、今の自分と同じ年だったから。だから僕は無意識で待っていたのだと思う。かっこつけるつもりはないし、ひじょうに僭越なのだけど、こう言いたい気持ちが僕にはある。
どうぞご自由に僕の躰をお使いください。
「行ってくるよ」と寝室のドアを細く開け、すまなそうな笑顔を残し出発したあの日から、もう22年になります。2010年犬塚陽子(犬塚勉作品集あとがきより抜粋)
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