いろいろ思うことがあって、風景と平行して静物画を描きはじめた。河原で拾った鹿の頭蓋骨に、さあ描いてみろと言われているような気がした。じっと見つめているとよくわかる。こちらが見ているはずのだけど、あちらからも見られている。ふたつの視線がぶつかる空間に、ちょうど画布がある。
静物画はとても落ち着く。気が安らぐ。だけどもうすこし絵を重ねてからの方がいいかなと思っていた。でも今進めている森の絵にズレのようなものを感じていて、それを解決するために、静物を描く必要があった。見ることと、見られること。距離感のことだと思う。
森(モチーフ)は目の前にないけど、記憶のなかにはある。ありのままの森と記憶の森が、重なり合う空間に画布がある。その距離感を、静物は思い出させてくれる。外と内が重なり合ってくると、自分が消えていくのがわかる。その消失点が、自分と世界との膜だと思う。皮膚が外界と自分とを分けているように、意識にも透明な膜があって、見えているものや見えていないものの間で、まるで風に揺られるカーテンのように、呼吸しているという気がする。その呼吸が、自然や物に生きた印象を与えている。
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