バイクの野営旅で疲れはピークに達していたのだけど、国見ヶ丘の壮大な雲海に迎えられ、高千穂に入った途端にいつのまにやら疲れが蒸発して、躯が喜びはじめて元気が戻っていた。道の駅に辿り着き、看板を読んで神話の里だと知る。なんだろうこの雰囲気。大昔にここで栄えた、小さくて豊かな文明が確かにあったという説得力に溢れていて、それらを裏付ける遺跡群が丁重に受け継がれている。ここはどことなく偶然辿り着いたアトリエ、神山の風景に似ていた。細胞が喜んでいた理由は、その風光明媚による視覚情報の恩恵だけではなく、我が家に帰ってきたような単純な安心感で心が笑っていたのだ。
弾丸ツアーだったが、急ぎ足でひと通り土地を見て回った。やはりどこに行っても、ホッとする。気持ちがよく、知らない土地に懐かしさがある。もし自分が地図のない時代にここに辿り着いたのなら、この辺に家を構えようと試みたのかもしれない。温泉に入ったあと、路肩にバイクを止めた。太陽を隠した濃い霧が空一面に立ちこめ、すべてを一瞬にしてリセットしてしまうかのような力強い光明を放っていた。
むずかしいことはなしにして、とりあえず旅っていいなあ、と思った。
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