森に運ぶことができる最大のサイ ズのこの絵は、描きはじめてから 二年くらい経っているような気が する。初めて屋外で描いた作品な ので、思い入れがある。なかなか絵が 進まない原因は、自分ではよ くわかっている。
季節や時間によって、風景は移り 変わる。だから気の向くままに制 作していると、画面は常に破綻す る。その破綻を修正するのに、同 じ時間だけかかる。それを繰り返 してるから、完成しない。画布の 下には凸凹とした無為な時間が埋 もれている。写真には映らない、 森と光に向きあった思い 出の地層が、足踏みしている色の下に沈んでいる。
アントニオ・ロペス・ガルシアは 、グラン・ピアの夏の夜明けの光 を描くために、毎日早朝の地下鉄 に乗り、わずか2~30分の現場 制作を7年間続けた。風景を巻き あげてしまうくらいの、魂の渦を 宿したゴッホの力なら、一日でこ の森を仕上げただろう。時間の使い方 は魂の在り方によって違う。
最近、仲よくなった地元の人に、 哀しい出来事を聞いた。その人が 子どものころ、生活苦に耐えかね て、森の入口の祠の樹で、首をつ った人がいたらしい。そういうこ とは、昔は珍しくなかったという 。ただその人は、制作に通って いる森のことまでは知らなかった。低い 山の頂上にある祠から、この森に繋がる道は、草 がボオボオに生えていて、わかり にくい。もういないけど、はじめ てこの道を通ったときには、スズ メバチがこの森を守っていて、 簡単には近づけなかった。
頂上の小さな祠は、到達点ではなく、ほん とうは通過点。だからその奥に向 かって、進んでほしかった。この先の 森の美しさに包ま れれば、苦しみが消えたかもしれ ない。この森は人生の終点ではな くて、はじまりも終わりもない場 所、至る道は案内もなく、草むら に隠れている。
その話を聞いてから、すこし森に 行くのを避けていたのかもしれな い。祠の前の、それらしい樹に手 を合わせた。樹は哀しそうに、で も微笑みを浮かべた。それから 赤いハンモック の前にイーゼルを立てると、気の 早いセミが鳴いた。おかえりと迎 えられたような気がした。終わら ない絵の上に、新しい色が帰って きた。
季節や時間によって、風景は移り
アントニオ・ロペス・ガルシアは
最近、仲よくなった地元の人に、
頂上の小さな祠は、到達点ではなく、ほん
その話を聞いてから、すこし森に
0 件のコメント:
コメントを投稿