実家のすぐ近くに海があるので、帰省したときにはいつも自転車で海まで散歩に行く。その道中の河に、捨てられたボートの残骸がいくつもあって、それを見るのが昔から好きだ。苔むしていて、壊れていたり、半分くらい沈んでいたり、水中に沈みきって魚の巣窟になっていたり、先っちょだけ見えていたり。全部もう誰にも使われていない老い舟。時間を忘れて、じっと見いってしまう。なんで見入ってしまうのか。それはよくわからないのだけど、なにか目の前にあるものとは別のイメージを、舟に重ねて見ているのではないかと自分に感じる。ただの朽ち果てた舟なのだけど、あともうすこしで広大な海が広がっているという手前の、誰にも相手にされていない静かな場所で、沈むでもなく、浮くでもなく、主人を失って、捨てられて、なにかを主張するでもなく、ただただ黙って、ひっそりとたたずんでいる。
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