2017/04/29

魂の影

ひどく体調を崩していたカムイが、やっと回復してくれて、ホッとした。空とカムイは元気があり過ぎて、手に負えないところがあるのだけど、元気がないよりはずっといい。

特にカムイは自分にべったりなので、身代わりに近づいてきた病(邪気)を、引き受けてくれた自分の影のように思えてしかたない。彼らはたまたま犬と呼ばれているだけの、なにかだと思ってる。宮沢賢治のガドルフの百合や、タルコフスキーの映画に出てくるような、物語を横切る、安らかな黒い影。ペットの話ならしたくないけれど、魂のことなら話したい。

実感として、動物に人間の言葉は通じない。でも想いは伝わっている。人間よりも感度が高いので、どれだけ激しく暴れても、無造作に置いてる絵を傷つけたことは、いままで一度もない。草や木や花も同じだろうと思う。人間の言葉は持っていない。でもそれぞれの言葉を持っている。

ある夜、赤い橋の手前で、車にひかれた子犬を見つけた。藍染めの着物で包んで、弔った。それから突然迷いこんできた、二匹の捨て犬。きっとそのへんに咲いている小さな花にも、理由があるのだろうと思う。人間の都合で物事を見ていると、違う回路の言葉は汲み取れない。

いつだったか、長くゆるいカーブで、ニコニコと手を振ってくれる、お婆さんがいた。森のなかで、風もないのに、揺れている草を見ていると、名前も知らないその人のことを、思い出すことがある。風の音が聞こえる、吹きさらしの、あのゆるいカーブには、いまもなお、汲み取れないままの言葉が、流れている。

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