2012/06/19

花魁の蛇

三匹の蛇が夢にあらわれた。草藪に身を隠しながら、車懸り(くるまがかり)の陣を作り、円を描くように僕の前に現れては消えた。その一匹は赤い蛇だった。花魁の口紅のような色をしていて、その蛇とだけ、目が合った。

雨音が激しすぎて、ほとんど眠れなかった。明るくなってから外を見ると、浮世絵のような力強い雨のうしろに、ホワイトノイズのような霧が立ちこめていた。(そうとう水が出たな)。そんな予感と轟きに誘われて、河原に下りてみた。予想以上の氾濫だった。鮎喰川はエメラルドグリーンを脱ぎ捨てて、もはやいつもの状態を思い出すのが困難なほどに、裸で狂って踊っていた。しかしながら、怖くはなかった。なんだか自分が、深く深く沈みこんでいくような、この世界を抱きしめているような、とてもいい気分だった。自分を見失わないように注意して、モノトーンに時間を流した。