2012/08/25

分身の術

おもしろがって放置しているので、我が家のまわりは蜘蛛の巣だらけ。かれらは指で触れたり、巣に触ると、巣をつかんで躰ごと前後に激しく揺らす。分身の術を使うのだ。それは自分を大きく見せようとする威嚇行為だと推測できる。 巣に触れるものが、餌か、そうでないかを、ちゃんと認識して、それに応じて反応しているのだ。このアクションがすこしでも遅かったり間違えていれば、餌を取り逃がしたり、ぎゃくに自分が襲われたりするのだから、その反応には、一切の迷いがなく、力強い。決死であり、全力。迷いは即、生死に関わるのだから、それは当然のことだと思う。



屋久島に行ったとき、街を歩きながら、やけに蜘蛛が多いなあ、と不思議に思ったことがある。森のなかではなく、島を取り囲むように、蜘蛛がたくさん巣を張っていた。それはもちろん、森のなかではなく、周辺に餌が多くあるからなのだけど、そのような事実を凌駕して、人間である僕の目には、害虫から大切な島を守るように、結界を張っているように映った。蜘蛛は人間を認識できない。もし人間が近づいてきたなら、恐るべき脅威、死の影として捕らえ、その本能で、分身の術という、生と死のギリギリの間際で、危険を回避するための最高の対応をとる。そんなふうにかれらは、ただ新しい太陽と、新しい毎日を必死に生きている。
 
こんな小さな生き物だけど、教えていることがある。大きな声ではなく、聞き取れないような小さな声だけど。




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