2017/04/29

メビウスの帯

樹齢千年の大楠へ。場所は頭に入っていたけど、ずいぶん迷ってしまった。

想像以上の霊性だった。誰もいない孤高の風景を、脳裏に描いていたけど、子どもたちが遊んでいた。老女が根を周りながら、なにやら念仏を唱えていた。こんにちはと声をかけてから、すこし離れてスケッチをしていたら、足音もなく、老女が近づいてきた。

すれ違っただけなのに、白蛇のような、絡みつく視線を感じた。この大樹の、守人だろうと思う。老女が去ると、変身したように、赤子を抱いた女性が現れた。生と死を抱いたような、安らかで不思議な時間だった。

羅針盤が惑うのか、大切な場所に辿り着くときは、いつも迷っているような気がする。わかりにくくて、簡単には辿りつけないように、結界がかかっている。でもその結界をくぐると、一気に世界が変わる。

テオドール・ルソーや、クールベのフラジェの樫の木の絵を、思い出していた。広い野原に、ポツンと突き出した千年樹は、絵でしか伝えられないような、独特の質感を持っている。

向こうからやってきた、風景と呼ばれているものと、こちらに微睡んでいる、魂と呼ばれているものは、メビウスの帯のように、ひとひねりに繋がって、完結している。

 

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