2018/06/08

ほんとうに大切なもの

気になって録画してもらっていた屋久島のNHKドキュメンタリー番組を見た。未知の森や屋久杉の映像は、たしかに素晴らしいんだけど、なんかちょっと、うーんと思ってしまった。屋久島で自分の目で見て体験したことと、映像にズレがあった。
 
ドローンの映像って、目に新しいから、確かにすごいんだけど、あっというまに古くさくなる感じがするし、下から見上げて感じてる人間の目とは印象が違うし、屋久島の心を感じないというのか、人間と森の関係が、表面的でリアリティを感じなかった。
 
島には二度取材旅行に行ったけど、縄文杉に行ったのは最初の一度きりだった。すこし疲れているような、独りになりたがっているような気だるさを感じたので、避けていた。結局、登山道から逸れた、名もない場所ばかりを描いて、場所も伏せていたけど、鋭い人には、すぐに屋久島と気づかれた。
 
宮之浦を縦走したときは、ほんとうにヤバいものを感じて、写真も撮れなかった。ここに長く居すぎると、もう二度と現世に戻れなくなるような、大きな風に、魂をさらわれてしまいそうなあの気持ち、いまでもよく覚えている。
 
それは木の高さが何メートルあるからとか、樹齢何年だからとか、そんなふうに測れるようなことではなくて、島の核に触れてしまったようなような、山の神気を帯びてしまって、実際にそれからは、不思議なことが起きたり、神秘的な体験をした。ちょっと気がふれたような感じになってしまって、その日は眠れなくて、夜が明けるまで島を歩いた。連泊していた宿の、ヤクザのような風貌の主人に、言われた言葉を思い出していた。
「ここで生まれて育ったから、なにがおもしろくて、みんなわざわざここに来るのか、ぜんぜんわからん」

最先端の登山装備で、コンピュータではじかれた計算を元に、誰も知らなかった大樹と、いま流行りのドローンで撮った、ダイナミックで美しい映像。それは素晴らしいかもしれないけど、密室で作られたCGを見せられているようで、自分のなかにある屋久島とは違った。それは自分の感じ方だから、共感は求めないけれど。

ある山の夏祭りには、こういう人がたくさん集まってくる。その背中を見るだけで、なにかほんとうに大切なものが、ジワっと伝わってくる。




 

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